2019年01月24日 01時00分

「設定資料集」というスケッチ

田代天音

元宮秀介、ワンナップ 「ポケモンぜんこく図鑑」

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 「ポケットモンスター」シリーズは、ゼルダの伝説シリーズと同じ任天堂から発売されたゲームである。シリーズのタイトルとなっている「ポケットモンスター」、縮めて「ポケモン」という生き物は、ゲーム内の世界において動物や魚、鳥、ある時は伝説に語られる神獣などとして生息する。最初のゲームが発売されてから20年以上の歳月が経ち、ゲームに登場するポケモン、ゲーム内でいうと「確認されている」ポケモンの種数は今や800を越える。それに従って、そのポケモンの種類や姿、能力などをまとめたいわゆる攻略本は、シリーズを追うごとにサイズと重みを増している。

 この書評で扱うのは、「ポケットモンスター サン・ムーン・ウルトラサン・ウルトラムーン 公式ポケモンぜんこく図鑑2018」、その特別版に同梱されている「ポケットモンスター サン・ムーン・ウルトラサン・ウルトラムーン 設定資料集 Essential」である。

 この本はポケモンシリーズの歴史の中で、初めての「設定資料集」と銘打った書籍である。あくまでポケモンはプレイヤーにとって「生き物」であり、その価値観を壊しかねないメタ的な「設定」は表に出すべきではない、という制作側の思いが、「設定資料集」の刊行を止めていたのだろう。しかし、近年攻略本の巻末や、ゲームソフトの購入特典の画集に設定画が加えられるようになった。そして今回、それを一冊にまとめた形でこの「設定資料集 Essential」が刊行された。

 しかしメタ的なものがついに表に出されたのかというと、そうではない。「設定資料集 Essential」に収録されている資料には、「ポケットモンスター サン・ムーン・ウルトラサン・ウルトラムーン」に登場するポケモンたちの姿、動き、生態が描かれている。それらはあくまで「設定資料」らしくなく、むしろプレイヤーがまだ触れたことのないポケモンについて、想像を膨らませるためのスケッチのように感じられる。

 ゲーム画面の画質が向上したことにより、シリーズ初期では粗い白黒のドットで示されていたポケモンの姿は、フルカラーの3DCGで表されるようになった。それによってプレイヤーは、ポケモンの色や手触り、表情まで想像することが容易になっている。それに伴って、その想像を補強するものとして、こうした「設定資料集」が楽しまれるのだろう。実際に私も、「このポケモンはこんな動きをするんだ、意外と可愛い」「このポケモンはこんなことができるんだ、すごい」と驚くことが多かった。実際にポケモンと暮らすことができたとしたら、私たちは彼らの意外な一面を発見するだろう。それができないぶん、私たちはこの資料集を通して彼らの生態を知り、彼らへの愛着を深めるのだろう。その点において、「設定資料」はメタではなく、ポケモンという生き物のリアリティを増すものとなっているといえる。

 またこの設定資料集でフィーチャーされているのは、ポケモンだけではない。ゲーム中に登場する場所の風景のスケッチや、アイテムのつくりの図、キャラクターの表情など、ゲームの主人公が見ているものの絵や図も多く掲載されている。私たちプレイヤーが画面ごしにしか見ていなかったものについて、その資料を見ることによってより明確に把握できる。主人公が見たはずの景色や人の表情をより鮮明に心の中に焼き付けたり、アイテムを操作するときのワクワクを感じたりすることを、この資料集が助けてくれるのではないだろうか。

 つまりこの「設定資料集」は、ただの「設定の資料集」ではない。ポケモン以外の設定資料集でも言えることだろうが、そのゲームの世界をより鮮明に思い描くためのスケッチである。そして設定、もとい作られた世界の姿をより鮮明に見た私たちは、画面の向こうの世界にさらに想いを馳せるのだろう。


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