昔から本は挿絵か色が無いと読めなかった。裏を返せば絵があればいくらでも見てられるくらい、絵のある本は好きだった。特に図鑑が大好きで、中学校に上がっても小学生の時に買ってもらった『こども大百科』を時たま開いては眺めていた。
数ある図鑑の中でもこの『こども大百科』が特に好きだった。サムネイルになっているものは私が読んでいたものより版が新しいため、内容がまた変わっているかもしれないが、本当になんでも載っていて見応えがあった。普通は「恐竜図鑑」とか「植物図鑑」とかある程度カテゴリが分けられているが、これは全部、人体から宇宙までありとあらゆるものが載せられるだけ載っていた。だから、あいうえお順にならんだページは捲るごとにジャンルが変わり、目まぐるしい一冊になっている。「あいさつ」で世界中のあいさつが紹介されたページの次は「あかちゃん」でお母さんと赤ちゃんの10ヵ月あまりの人体の神秘について紹介している。とにかくなんでも載っていた。「恐竜」も「植物」も「動物」も「機械」も「宇宙」も。専門的に載せている図鑑より情報量は劣ってしまうがそれでも十分なボリュームだった。
小さな頃から整然とものが並べられ、整理されているものを見るのが好きだった。警察が窃盗犯から押収した物品を陳列した映像も好きである。ゲームの設定資料集とか攻略本なんか最たるものであった。ゲーム上では全ての武器やアイテムを入手することは難しく、キャラクターを並べて比較してみることなんてできなかったが、本の上では一覧として全てのアイテムが並べられていた。それを見るのが好きで好きで仕方なかった。この武器のデザイン、よく見るとグレードアップしたときにちょっと持ち手の色が違ってる!とか、そんな細かなところで喜んでいた。好きなものは全部を知りたくなってしまう根っからの情報コレクターなのである。
そう、全部知りたいのである。この『こども大百科』は前述したように、子どもの時に興味をもつであろうカテゴリのほとんどを網羅している。大人になった今、世界の全てを知るなんて何千年生きてても不可能であることはもちろん承知しているが、子どもにとって、この情報量は世界そのものであった。例えると世界の設定資料集みたいな情報量なのである。だから、自分の生きている世界でまだ見ぬもの、おぼろげにしか理解してなかったものがこんなにもあることにとてつもなくワクワクした。
現在に至るまで文系科目、理系科目問わず幅広く好奇心をもてるのは、この一冊で世界に興味を持てたからなのかもしれない。数字を操るのが下手なため、物理や数学は苦手だったが、それでも物理が表わす世界の法則には面白さを感じる。今はもう図鑑を開くこともしなくなってしまったが、今度は私が体験してきたことや得てきたもので『こども大百科』にページを付け足していっている感覚である。世界にはとんでもない量の知らないものがあるが、私の目で見られたものを世界とし、頭の中の百科に差し込むのも楽しいものである。そして人生の終わりの時にそれらを整理し、超アップグレードされた私の世界設定資料集「わたし大百科」を見返して楽しみ、また下の世代のために噛み砕いて『こども大百科』として受け継ぐのかもしれない。