初めて読んだ時、もの凄い衝撃を受けた一冊。絶海の孤島に閉じ込められた登場人物たちが、一人また一人と数を減らしていくその様を、1回目は何もわからないまま、ただただスリルとサスペンスに突き動かされるまま読みすすめ、読了後はそのトリックの秀逸さにしばし呆然とした。全てのトリックを理解した上で、犯人の言動に注目しながらもう一度読み直してみて、その物語の作り込みの緻密さに、またもや感心させられたのを、はっきりと覚えている。もちろん、この作品以外にも、今までミステリー小説はいくつか読んだことがあるが、ここまで感銘を受けた一冊は他にない。この作品の、最後の最後で大どんでん返しを仕掛けてくる感覚は、O・ヘンリーの作風と共通するところがあるかもしれない。O・ヘンリーの作品は非常に卓越した物語構成で、秀逸なオチがついている作品ばかりだが、中でも特に『賢者の贈り物』と並んで代表作と名高い『最後の一葉』は、読後に残る何とも言えないほろ苦い余韻に、幾度となく読み返したものだった。さて、『そして誰もいなくなった』に話を戻すが、この作品は私が高校生になってようやく、初めて読んだミステリー小説でもあった。週末の昼過ぎ、祖母の家に遊びに行くと、必ずテレビのチャンネルが合わせられていたサスペンスドラマが苦手だった影響で、サスペンスやミステリーというジャンルに対して消極的になっていたのだ。そんな状況で、初めて手に取ったミステリー小説が、この作品だった。びっくりするくらい面白くて、夢中になって一日もかからずに読み終えたと記憶している。今になって冷静に考えてみると、最終的に孤島に閉じ込められた登場人物が一人残らず死亡する『そして誰もいなくなった』の方が、土曜昼下がりのサスペンスドラマよりもよっぽど恐ろしいストーリーになっていると思うのだが、そこはやはり小説で読むか映像で観るかによって、「人が殺される」という出来事のショッキングさがケタ違いに変わってくるのだろう。未だにサスペンスやホラーの映像やゲームは大の苦手だが、小説だとホラーだろうがサスペンスだろうが結構いけてしまう。映像というメディアの持つ暴力的なまでの表現力には、なかなかに恐ろしいものを感じる。