2019年01月22日 09時12分

全員主役

ueno akiko

成田良悟 「バッカーノ!1931」

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 1931年、禁酒法時代のアメリカ。列車強奪を目論む不良グループ。指導者解放を望むテロリスト。白服を身に纏う殺し屋集団。大胆不敵な泥棒カップル。乗客を脅かす謎の怪物。大陸横断鉄道に偶然乗り合わせた彼らの運命は、次第に絡み合い、繋がっていく。これだから群像劇は好きだ。

 群像劇は「グランドホテル方式」とも呼ばれているらしく、ふたつのパターンに分けられるそうだ。「同じ空間に存在する人々の人間模様がそれぞれ別のエピソードとして同時進行する」ものと、「同じ空間に存在する人々の(一見すると無関係な)エピソードがそれぞれ交差することで物語が展開する」もの。私は後者が好きである。ちなみに「グランドホテル」とは、この手法を用いた同名の映画のタイトルが元になっているようだが、観たことがないので使わない。『グランド・ブダペスト・ホテル』はキュートで面白かった。

 知らず知らずのうちに群像劇を扱う作品に多く触れてきたのは、本能が探し当てたせいか。小説なら『グラスホッパー』、映画なら『シン・シティ』、ゲームなら『サイレン』。複雑に交差し繋がる各々の思惑や行動がひどく面白い。特にガイ・リッチーによる映画『スナッチ』は洒落ていて好きなのだが、同じく『バッカーノ』シリーズの作者はそれに影響を受けているらしい。

 『スナッチ』が86カラットのダイヤモンドをめぐるドタバタ劇だとしたら、『バッカーノ』は不死の酒をめぐるバカ騒ぎだ。そもそも「バッカーノ」とはイタリア語で「バカ騒ぎ」を意味する。豪華列車に乗り合わせてしまった彼らは、結構ド派手にドンパチやっているが、傍から見ると―読者からするとなんだか楽しそうなのである。止まらない密室内なら何をやっても良いと思えるのは人間の性なのだろうか。本編に描かれていないところでは、高級そうなワイングラスがまるで雪玉の如く飛び交っては、粉々に砕け散っているのかもしれない。そういったならず者たちの乱痴気騒ぎが群像劇として描かれているので、文字通り楽しく読めるし洒落ている。敵対するギャングの静かなる抗争とか、そういったものが描かれている訳ではない。

 前述したように『バッカーノ』は酒をめぐる群像劇だ。この酒は「飲むと不死になれる」とされており、物語の重要なカギとなっていく。今回挙げた『鈍行編』でも度々「不死」「不死者」という言葉が出るが、それに纏わる「不死の酒」が生まれた事の発端は、本作から200年前に遡る。一作目である前作の話だ。

 つまり、シリーズ一作目の設定を元に『鈍行編』があり、その後の話が続いていくのである。さらに、それぞれの人間模様が絡み合った先で「不死の酒」という、引き金というか因縁というか、バカ騒ぎの根源に集約していくのも面白い。だが『オリエント急行の殺人』のような、「密室状態の豪華列車で起こる非日常」というシチュエーションに弱い私は、この『鈍行編』が何よりも好きなのである。

#密室

#群像劇


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