2019年01月22日 06時24分

食と偏愛

宮田泰盛

村上春樹 「ラオスにいったい何があるというんですか?」

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私は、恥ずかしながら、村上春樹の本をこれまで読んだことがなかった。というのも、「なんだかちょっと難しそう」という理由で敬遠していたからだ。読んだことはないが、何となく「すごい人」というのは知っていた。難しそうだけど、最初は手軽に読めるものに挑戦したい…そう思っている私の目についたのがこの本であった。

本書は、筆者の村上春樹が、これまで訪ねた国や地域の紀行文をまとめたものである。ところどころ挿入されている現地の写真のおかげで、訪ねたことがない国もどんな雰囲気か想像できるが、なんといっても、筆者の優しく語りかけるような文章のおかげで現地の情景を鮮やかに描くことができた。本を読みながら、私自身も旅行をしている気分になった。

そして、本書から筆者がかなりの「食通」であることも判明した。例えば、筆者がイタリアのトスカナを訪れたときのこと。筆者は、昔執筆した小説で登場させたワイン「コルティブオーノ」の生産者に手紙を出し、取材でその農家を訪れた。そこでワインを口にするのはもちろんなのだが、その描写だけでなく、ワインとトスカナ地方料理の相性、料理が出てくるまでの時間、料理を楽しんでいるときの空間、そしてコルティブオーノの歴史など、非常に細かく、かつ分かりやすい描写で本文が埋め尽くされていた。筆者が、心から、食に愛情を持っていることが伝わってくる。読んでいると、口の中が唾液で満たされ、気づいたらページをめくる手が止まり、自分が食事をしている風景を妄想していたことが幾度となくあった。その地域にあった食事、その地域だからこそ楽しめる食事を、筆者は本書で私たちにしっかりと提示してくれている。

紀行文集ということで、筆者が訪れた国について割と淡々と述べている文章なのかと思っていたが、読み進めるにつれて、それは全くの見当違いであることがわかった。その国の雰囲気、気候、時間の流れ、自然、食事など、まるで私も同じ場にいるような、それでいて、筆者の偏愛、こだわりが随所に垣間見える文章であった。本作品を通して、筆者の食への愛情の深さが分かったと同時に、偏愛、何かにとてつもなく愛情を注ぐことが、その人らしさ、その人の人生を作り上げるのだということも実感することができた。

#食

#イタリア

#トスカナ

#ワイン

#こだわり

#偏愛


この書評のリレー元書評:




2019年01月07日 04時46分

味わう読書

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