私はこれまでSF文学作品を好んで読んでこなかったタイプの人間であったため、SF作品の知識が皆無であった。あまりにも現実離れしている物語にどうしてもついていけず、好きになれなかったからである。それ故に今回の課題でSF文学作品を1つ選ばなくてはいけなくなった時、私はインターネットに頼るしかなかった。「SF小説 おすすめ 日本」で検索し、いくつかのサイトを閲覧しながら自分の興味が湧く作品を探した。その中で唯一私のアンテナに引っかかった作品が、今回取り上げる『know』である。
2040年、「情報材」という微細な情報素子を含む素材・建材が開発され、情報材で作られたものは全て自らが取得した情報を世界に流し続ける情報インフラの一部となった。しかしそれによりあらゆる場所で情報を取得できる「超情報化社会」が誕生し、人間の脳では処理しきれない情報が日本で溢れ、人間たちは情報精神疾患を患うまでに衰退していた。だが、人造の脳葉「電子葉」を天才:道終・常イチが誕生させたことで、人間は情報取得と処理の高速化を手に入れる。そんな天才に学んだ主人公の御野・連レルは28歳の若さで情報庁情報官房情報総務課指定職審議官に上り詰め、エリート官僚としての日々を過ごしていた。そんな彼だったが恩師の作ったコードを読み解く中で、コードに隠されたメッセージに気づき、14年前に突然失踪した恩師との再会を果たすこととなる。と思いきや、恩師は連レルに最後の講義と14歳の娘:道終・知ルを残して自殺をしてしまう。知ルはなんと世界最高の情報処理能力を持ち、ネットワーク全てのセキュリティホールを利用できる、量子コンピューターの電子葉「量子葉」を取り付けた唯一の人間であったのだ。
この物語の一番のキーワードはタイトルにもあるように「know=知る」ということである。道終・常イチをはじめとする研究者たちは人類が「全知」を手に入れるべく電子葉や量子葉の研究をした。最高の脳を持つ道終・知ルは「全知」になるべく連レルを連れて神護寺の大僧正や京都御所の宮内庁京都付式部職式部官長を訪ねて脳という情報圧縮器官に情報を蓄えた。では「全知」とは何なのだろうか。
文中で知ルはこのような発言をしている。
「(前略)蓄積された情報が絡み合い、一つ先を想起させる。もちろん間違いもある。ですが情報の累積が進むなら、予測の測度も上がっていく。想像力とは”正解”により速く、より正しく到達するためのアルゴリズム」
「私達の脳は想像力に長ける。だからこの世界で”正解”を求めるなら、脳に世界のありったけの情報を注ぐべきだ。可能な限り”全知”を目指すべきだ」
そもそも「電子葉」と「量子葉」は脳の情報処理を助ける装置ではなく、脳というネットワークが膨大な情報を処理できるように育てる装置であった。つまり知ルは「量子葉」を使って膨大な情報量の処理とそれを使った想像力の先にある、人間が知り得ない”物事の正解=「死」とは何か”を知ろうとした。そして完全なる「全知」を手に入れたのだった。