よくハラハラドキドキするような展開や物語を求めて本を読んだり、映画をみる。しかしそれは楽しいと同時に心を酷使するような感覚に襲われる。そんな時に救いとなってくれるのがさくらももこさんの小説だ。どの本もほのぼのとしたくすっと笑える日常が散らばっている。私はお笑いが好きなのだが、笑いって好みだよなと思うことが時々ある。自分が面白いと思うことが100パーセント共感されうることはそんなに多くない。けれど一方である一定の人が面白いと感じるものも確かに存在している。それを作り出せる人を私はとても尊敬している。さくらももこさんももちろんそのうちの1人だ。
この本は作者が妊娠してから出産を迎えるまでの日常や作者の考えを書き記している。まだ幼かった頃の私にとって子供を産むことはある種のロマンであった。本の中でも言及されているが妊娠というものは本来「おめでた」と呼ばれるほどめでたいこととされている。しかし二十歳を超えた今の私は、仕事と出産との両立や電車で泣く赤ちゃんに対する周りの雰囲気など現実にばかりに目を向けてしまう。出産と社会的要素を結びつけずにはいられない。だが、子供を産むということは社会的にどうこう以前にとても神秘的で尊いものではないのか、という問いをこの本は提示してくれているように感じる。だいぶ大層な言い方をしてしまったがこの本には著者が妊娠中に経験した出来事を面白く時には真剣に記しているだけだ。書かれていることは日常のほんの些細なこと。しかしそんな生まれてくる子供と向き合う些細な時間の経過や周りの人との関係性が子供を産むということについてもう一度見つめ直すきっかけを与えてくれているように思えてならないのだ。
そしてこの本の最後の章「出発」を読むと人間という存在について、もっと身近に私というものの存在について考えたくなる。人間はうまくできている。前にAIに関する授業で感じた、人間は一人一人が最強のコンピューターを持っているというぼんやりした考えを思い出した。