「見てない映画も、愛せますか?」
というセンセーショナルな一言が帯に刻まれたこの本は、映画保存について国立映像アーカイブ主任研究員である筆者の経験や映画保存に関わる方との対談などをもとにエッセイ形式で書かれている。
正直にいうと、映画に関しては講義でかじった程度、ましてその保存だなんて知識はなかった。しかしそんな私も、この本を読了する頃には作品という視点だけでなく物としての映画やアーカイブの意義について少なからぬ思いを抱くようになっていた。
文中で特に印象に残っているのは、保存は“アクティブ“という一節だ。ただ放っておいては今ある名作も誰にもに見られることなく朽ち果て、忘れ去られてしまう。可能な限り多くの作品が長く人の目に触れられる状態であるためには、アーキビストの仕事や映画を観る人々の理解が重要であることがうかがえる。
フィルムは適切な環境下に置かれないと爆発したり酸っぱい匂いとともにボロボロになってしまったりするという衝撃的な事実とは裏腹に、きちんと管理されれば長く状態を保てるそうだ。一方で昨今の主流となりつつあるデジタルデータによる保存は、フィルムの保存と比べ物質として存在しないものを扱う難しさがある。データが人為的なミスや保存媒体の劣化といった様々な要因からいつ読み出せなくなるかわからないからだ。手軽にデジタルデータを扱えるようになった今、映画もさることながら自分のスマートフォンにある写真や動画などのデータも同様の状況と言えるのではないだろうか。デジタル・ジレンマと言われるこの現状は、人ごととは言えないかもしれない。こうしてみてみると、保存するという行為は非常に身近なことのようにも感じる。
また、第二章にある日記形式の海外修行部分も筆者の人柄が覗けて素敵だ。このような方が日々映画保存に奔走しているおかげでかつての映画たちをできる限り当時に似た状態で見られると考えると心が揺さぶられる。
映像アーカイブという一見すると静かな行為の中にある人々の熱い活動と、自分自身にも実は関わりのある保存について思いを馳せる。