2019年01月16日 16時38分

自己を装う

Sakurako

茂木健一郎、恩蔵絢子 「化粧する脳」

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 先日、パスポート申請のために証明写真を撮った。少しは顔を整えようとヘアメイクをセットしたはずなのに、想像とは違う自分の顔がそこには映し出され愕然とした。

 撮られた写真を見たときに、思い通りに映らなかった、という経験のある人は少なくないだろう。自分の顔を生で見た人なんて誰もいないからだ。鏡は反転の姿であり、虚構である。自分が一番知っていそうで知らない、未知の世界なのである。自己は他者でしか認識できないのである。

 他者の中の自己—。自己をアプローチする機会が多くなった就職活動の時期に本書を読んで考えさせられたキーワードだ。「化粧をする」という行為が社会的コミュニケーションにどのような影響を与えるのか。本書は脳科学的な視点から化粧や美をテーマに「装う」人間の本質を探っていく。

 外出をしない日はすっぴんでいる。このような女性はどれほどいるのだろうか。私を含め、おそらくほとんどの人がイエスと答えるだろう。要するに、化粧は他人からの視点を確認しながら行なっている「ソーシャル・パスポート」なのである。そして他者を意識して化粧をするということは、自分の脳にも化粧をしているのと同様なのである。意識が外へ向かうことで社会的な知性を獲得し、外見だけではなく内面も変化していくのである。著者の茂木氏はそう述べる。

 他者への意識から自己を装うという行為は、SNSやインターネットの世界でも通じるものがある。インターネットでは、常に「見られる」状態であるために誰しもが装うことで自己を形成している。そう考えると、インターネット上における「自己」が作りかえられていくことで「本来の自己」へ内在化させ、新たな自己が形成されていくのではないかという考えに行き着く。それと同時に、「本当の自分」を見失ってしまうのではないかという恐ろしさも感じられる。

 身近なことにリンクさせてしばらく考えてしまったが、「自己」について、そして「装うこと」について深く考えさせられる一冊である。