この本に出会ったきっかけは、自炊ご飯をInstagramに投稿しているファッションモデルだった。私も食べ物が好きだ。本においては、食べ物が物語の中で登場人物の感情を動かす装置として働いているような作品が好きだ。
しかし、この本は現実に存在するお店の料理など、著者が実際に食べたり作ったりした食べ物についてのエッセイーつまりノンフィクションだ。
初めてのジャンルに胸を踊らせながらページを開いた。 読んで数行でオムレツの匂いや見た目が目の前に鮮やかに浮かび上がった。文字のみのレシピのようだが、彼女が実際に作ってみた過程に沿った説明であるため、調理中の感情やその料理に対する気持ちも追うことができる点で、小説に近いようでもある。
著者は歌手として海外生活が長かった。そのため、実際にある店の名前が出てきても、どこか現実離れした、いい意味で感情移入しにくい世界観が生まれている。飲食店評価エッセイではなく、食に対するこんな価値観もあるんだよ、と私たちの視野を広げてくれる。
例えば、フランス人は皿を拭くふきんを洗うのに、電気洗濯機を使わないのだそうだ。生地を痛めないように、たらいの中でぐつぐつ煮て洗う。衣服にかけるお金を削ってでも、おいしい食べ物にかけるお金はけちらない、メニューを見て何を食べるか何分も悩む、という風に、食に対するこだわりも非常に強い国だ。また、イタリア人はスパゲティにソースをかけないのだそうだ。熱々の茹でたてに、バターと粉チーズのみを絡めていただく。ラザニアが名古屋のきしめんと似ているという表現も面白い。
Instagramで#石井好子を検索すると、本の中に出てきた料理を再現した主婦たちによる投稿が多く出てきた。私が再現してみたいと思ったのは、スタッフドトマトだ。トマトの実をくり抜いて器代わりに使う、見た目も美しい前菜である。中身に決まりはないため、マカロニサラダやひき肉など、工夫次第で様々なスタッフドトマトができる。鮭やカニなどの海鮮を使うのもおいしいだろう。
元々食好きな人はもちろん、食べ物に対する興味が薄い人にもぜひ読んで欲しい。生活がより豊かなものになるだろう。