2018年12月21日 09時29分

異種生命体と共生できるか

Yuri Sato

アイザック・アシモフ 「世界SF全集」

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 SF小説と縁のない読書生活を送っていた私がアイザック・アシモフという作家の名前を初めて聞いたのは、ある男性の口からだった。テレビ東京のバラエティ番組のプロデューサーである佐久間宣行氏にインタビューに伺った際、大学生活の中で彼がアシモフのSF小説を片っ端から読み漁っていたことを知った。その後、SF小説に触れる機会を得、読書好きの知人に勧められたSF小説の中に、『鋼鉄都市』というこの作品はあった。「アイザック・アシモフ」という名前との再会の喜びのような思いから手に取った一冊だ。

 物語の舞台は、地球と宇宙市(スペース・タウン)の交流が活発化した世界線。そこで、宇宙人が地球人に殺害されたとされる事件が起きた。ニューヨークの刑事である主人公ライジ・ベイリは、自身の昇進を条件に、宇宙人と組んでその事件の調査を行うよう任命される。ベイリとパートナーを組んだ宇宙人R・ダニール・オリヴォー、そのRは実はrobotの略であった。あまりにも宇宙人そっくりの外見を持つダニールに動揺し、時に不満や疑念を抱きながらベイリは共に生活を送り調査を進めていく。

 この物語の中で読み手の心をくすぐる超現実的描写はいくつかあるが、その中でも特に印象深いのは「高速自動走路(エキスプレス・ウェイ)」だ。都市の中を縦横無尽に巡る動く歩道のような高速自動走路は、速度別の帯によって人々の群れを整然と振り分けている。その描写は、映画『マイノリティ・リポート』で描かれている、流線型の自動運転車が街中の幹線で整然と捌かれ目的地に滑っていく様を思い出させた。未来的な交通のあり方の提示として映画側もここから着想を得たのかもしれないと思った。

 また、この小説で描かれている中で特徴的なのは、市民階級制度の描写である。職場での地位や社会的な待遇がすべて、個人の持つ階級によって変化していく。位の高い人が好待遇を受けられることは言うまでもない。そして、その階級制が一番意味を持ってくるのは、子孫を残す時である。ベイリとその妻ジェシイの馴れ初めについて語られる中でさりげなく、両親の知能指数と遺伝価値指数、そして職業的地位によって子供を何人まで産む資格を有するか定められる旨が記述されているのだ。階級制度によって、生活の充実度が先回りして知ることができてしまう世界は単純に見ればディストピア的かもしれない。しかし、すべての知識をプログラムされた優秀な完全体である宇宙人ロボットとの共存を迫られた世界線だったらどうだろうか。より優等種を残し生物種としての繁栄を図る人類の行動も、一選択肢として考えることはできるはずだ。人類を超越する存在と、絶対的支配者の驕りを失った人間社会のあり方を描くことで、既に始まっている、人工的なものと共存する世界で人類がどう生きるかについての視座をこの物語は与えているように思った。

#デザインフィクション演習