2018年12月21日 01時38分

不思議な予言者

sawa

星新一 「ボッコちゃん」

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星新一氏は日本のSFの名手である。しかも極めて珍しいことに、その作品に幼児の時に親しんだという人が多い。それは2007年〜2008年にNHK総合で「大人のための童話」というキャッチコピーでアニメーション化されことによる。かく言う私自身、共働きで帰りの遅い両親を待ちながら見ていた記憶がある。

 

彼の作品の素晴らしいところは、発表されたのが今から20年以上前にも関わらず、現代社会が抱える問題を十二分に触発する作品であることだ。2,3分で読める短編小説で、読後に「その後」を想像させる手法を多用する。若干の「イヤミス」感を残すところも毒薬のような味わいがあり、読者を惹きつける。

 

本著「ボッコちゃん」は、同名のショート・ショートを含む全50作から成り立っている。代表作である「ボッコちゃん」は、美しい容姿を持つが生物としては不完全なロボット「ボッコちゃん」をバーの店主が、いわゆる看板娘とすることから始まる。彼女は客の酒の相手をするが、その酒は彼女の体内に蓄積され、店主はその酒を再び客に提供して荒稼ぎしていた。ロボットとは知らず彼女に恋をした男性客が、つれない彼女の殺害をもくろむ。男が帰ったあと、店主はいつものように彼女の体内容器の酒を回収し、それをまた別の客に飲ませる。そして店からは人の声がしなくなり、灯りだけがともっていた、という終わり方である。

 

私はこの作品を、ずっと私の記憶の底に潜んでいて、実は今の私に強く影響を与えたのではないかと疑っている。私は人間でないものと人間との(特にロボットや人間が作ったものとの)関係性について興味を持っていて、研究テーマとしている。「ボッコちゃん」は、ロボットである。カウンター越しに相手をさせることで、客がそうと気づかないように店主は工夫している。外貌は精巧だが、受け答えはオウム返しで稚拙である。だが足繁く通う客達には、彼女のその不完全さが、かえってミステリアスで、魅力的な女性として映るのだ。

 

現代においても、人間が人間以外に恋をする対物性愛は確認されている。CLAMP氏の作品「ちょびっツ」など、実際にロボットとの愛に心を揺さぶられる人間を描いた作品は多く存在する。「ボッコちゃん」は、時代を超え時代に沿って問題提起することが可能な衰えない作品なのではないかと思う。

 

大阪大学の石黒 浩教授が制作しているアンドロイド「イシグロイド」など、「人間そっくり」のロボットの制作は進んでいる。2018年現在、まだ多くの人間と思い込んでしまうような「ボッコちゃん」に準ずるロボットは開発されていないが、それも、時間の問題のように思える。現にオリックスのCMにはヒューマノイド「未来まどか」が話題となっているし、書評を書いている12月中旬には、ペット型ロボット「LOVOT」が公開され、とても生き物らしく可愛いと話題になっている。

 

科学の進歩によって星新一の描いた未来がすぐそこにある。もはや予言のようにも思えるこの作品は、いつまでフィックションであり続けるのだろう。そしてその時代、「ボッコちゃん」を殺害しようとした男が生まれたように、新たな闇が生まれるのであろうか。私たちは、やがて、その時代を見ることになる。

 

#デザインフィクション演習