どのようにその本を見つけたか:SFといえば星新一という安直な考えのもと、図書館で星新一の短編集を複数借り、借りた本の中の一冊に収録されていた。
概要:舞台は近未来。道路の舗装はプラスチックでなされ、人々は自動ローラースケートで移動し、みな肩にインコを乗せている。そのインコはロボットで、なかには精巧な電子装置と発生器とスピーカーを備えており、持ち主の呟いたことを、さらに詳しくして相手に伝えたり、相手の話を要約して報告する働きを持っている。会話は全てインコを通してなされ、人々が呟くのは本音、実際にインコが相手に向かって発するのはゴテゴテと美辞麗句で装飾された建前、しかしロボット・インコは相手の話を要約して報告する働きも持っているため、結局相手の耳に入るのは本音の方、といった具合で会話がなされている社会を、セールスマンのゼーム氏を主人公に描いた作品。
評価した点:こんな世界が近い未来に訪れてもおかしくない、と思わせられた点。建前を考えるという面倒極まりない作業を、ロボットが全て行ってくれるようになったら、どれほど楽になるだろう。技術描写はとても少なく、どんな技術でロボット・インコが持ち主や会話相手の言葉を翻訳しているのか、などは詳しく書かれていなかったが、その少ない技術描写でもロボット・インコの存在がこの世界にどんなに大きな影響を与えているかがよくわかった。ロボット・インコの持ち主たちは、一見、かなり無駄なことをしている。話し手が本音で話したことをインコが建前に翻訳し、聞き手のインコがその建前をさらに本音に翻訳しなおして聞き手に伝える。こんなまどろっこしいことをせずとも、話し手が直接聞き手に本音を伝えればいいものを、と思わずにはいられない。しかしインコは絶対に、この世界に必要なものなのだ。インコという建前を、一度挟むこと。この「建前を挟む」という行為こそ、話し手が相手に気を配っていることの証明であり、この世界で人間関係を円滑に回すために必要なものなのである。また、この『肩の上の秘書』で描かれている世界も、現在の世界も、やっていることはそう変わらないのではないかと感じた。現在の世界でも、人々は自身の頭の中で本音を建前に翻訳してから発言し、その建前を聞いた人は、これまた自身の頭の中で、聞いた建前を本音に翻訳しなおして、発言者の真意を伺う。現在の世界と『肩の上の秘書』の世界では、「翻訳」という行為を自身の頭の中で行っているか、インコが行っているか、という点が異なるに過ぎない。現在の世界で人間が行っていることをロボットやAIが肩代わりするという設定は、SF小説に多く見られるが、本音と建前という人間心理の複雑で面倒臭いところにロボット・インコを介在させることで、インコに存在感を与え、人間社会の煩わしさを際立たせているのではないだろうか。