2018年12月21日 01時44分

新人類。それは希望か絶望か。

松場智紀

ジェフ ヴァンダミア 「全滅領域 」

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 「アナイアレイション-全滅領域-」という映画がある。「内容が意味不明」というそれこそ意味不明な理由で、米国以外ではネットフリックスでの配信のみに終わった隠れた名作映画である。私見だが。その原作小説が、『全滅領域』に始まる「サザーン・リーチ」シリーズ三部作である。

 映画を観終わって、すぐに書店に向かった。なるほど、劇場公開に二の足を踏む理由も分からなくはない。非常に難解な作品であったのだが、その答え合わせのために書店を三店舗ハシゴしてまで原作小説を手に入れたかったわけではない。アレックス・ガーランド監督は、前作の「エクス・マキナ」からファンであったのだが、彼がこの度見事に映像化した「空想世界」に原作の小説があるという事が半ば信じられなかったのだ。そういう映像美が、文字で表象しがたい異形が、スクリーンには蔓延していた。

 小説のあらすじはこうだ。

 突如〈エリアX〉と呼ばれる領域が地上に現れる。エリアX内では独自の進化を遂げた生態系が生息しており、その領域は徐々に拡大している。エリアXの存在は極秘にされ、報道によって環境被害で立ち入りできないとされている。そしてエリアXを調査することを目的に、11の派遣部隊が送り込まれるが無事に帰還した部隊はなかった。12番目に派遣される女性4人で構成される部隊が物語の主人公らだ。

 原作小説を読んで初めに感じたことは、映画で際立っていたSF感が表立って描写されていないことだった。登場人物らの生い立ちや心情にフォーカスされた、サスペンス調のミステリーとか、スリラーに近い語り口が魅力的だ。そういう意味で、とても現実世界に近しい印象を持たせながら、少しばかり奇妙なモノを差し込む。例えば、人の目を持つイルカだ。体躯がイルカで、目だけが人間の生き物。その小さくも、はっきりと異質な生物は、大胆な空想世界よりも、もっと説得力を持ったSFを生み出す。現実世界に寄り添った空想ともいえるだろう。

 本シリーズ最も興味深い点は、生物学者のクローンが登場するところにある。三作目『世界受容』によると、エリアXが誕生したきっかけは、遠い宇宙で消えゆくある生命体が分裂して宇宙に放り出され、そのほとんどが消滅する中、岬の灯台に衝突した微小体一つが生き残っていたことにある。その微小体が、個体としての復元を試みるために灯台守に寄生し、徐々にエリアXの中で生態系を作っているようだ。ではそのことは、悲劇として語られるべきなのだろうかと、私は問いたい。単に地球外生命体に、人類が侵される物語なのか。

 生物学者のクローンは、あたかも真の生物学者かのように描かれる。クローンというのは、単に同じ遺伝子を分かつというだけでなく、寄生された灯台守と同じように、微小体を内部に取り込んだ存在のことだ。オリジナルはエリアXの内部で生き続けているのだが、エリア外で暮らすクローンは、オリジナルとして扱われる。これは、細胞分裂と突然変異に近い。突然変異とはつまり、進化への足掛かりなのである。細胞分裂した細胞は、古いものから死滅する。それと同じで、オリジナルはエリアXに取り込まれるが、代わりに微小体を内包した新しい生物学者が外の世界、表面上に現れる。そのことは、突然変異による人類の新たな進化、繁栄を意味しているのではなかろうか。なにせ、灯台から始まる変異の物語なのだ。道しるべから放たれる光が、絶望では困る。

#デザインフィクション演習