2018年12月20日 22時46分

自らの意思による記憶改編

山本真由

東野圭吾 「パラレルワールド・ラブストーリー」

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(1)作品との出会い

私は小学生の頃から東野圭吾さんの作品が好きで『パラレルワールド・ラブストーリー』も10年ほど前から気になっていた作品だったものの、未だ読んだことがなかった。東野圭吾さんは理系の大学出身なこともあり、テクノロジーの力を描いた作品も多いが、そのジャンルは今まであまり読んでこなかった。今回のレポートをきっかけに読んでみようと思い、また、映画化されたものを観たことがない作品が良かったため『パラレルワールド・ラブストーリー』を選んだ。調べてみると、来年映画化されるらしい。

(2)概要

主人公・敦賀崇史は、ある日親友の三輪智彦に恋人を紹介される。彼女はなんと崇史が一目惚れをした津野麻由子という女性だった。智彦から麻由子を奪いたいという思いと、親友との友情を壊したくないという思いの間で崇史は葛藤する。ところがある日の朝、目を覚ますと、麻由子は自分の恋人として隣にいた。崇史は違和感を感じながらも彼女との時間に幸せを感じるようになる。しかし次第に違和感が大きくなってゆき、崇史は何が真実なのかを突き止めるべく動き出し、真実を知る。実は、実験機関で働く智彦は記憶改編のための装置を開発していた。そして、自分に自信がない智彦は、崇史と麻由子が実は思い合っているのではないかと感じ、崇史との友情を壊さないためにも、3人の記憶を改編し崇史と麻由子が恋人であったという記憶を作り出すことを考えたのだった。

(3)評価した点

この物語で扱われるサイエンス・フィクションは、記憶の改編である。そして、その記憶の改編のメカニズムが決して難しい技術でできているのではなく、誰もが共感できる仕組みである点がとても面白いと思った。嫌な経験を後から思い出すと「それも良い思い出」と感じたり、他人に自分の経験を話す時に、自分の都合の良いように話を少し変え、何度もその話をしているうちにそれがあたかも本当のことのように感じてくるという経験は、誰しもが感じたことのあるものだと思う。「記憶は自らの意思によって改編されていく」という理論から生まれた装置を使って登場人物たちの記憶が改編され、改編される前の主人公を序章で示し、改編された後の物語が第1章から始まっていくことで、読者は主人公と同じ目線でどちらの世界が本物かわからずに物語を読み進めていくことができ、次第に主人公が感じる日々の違和感から真実を見つけ出していくという構造がとても面白かった。嫌な記憶を幸せな記憶に変えられたら、という誰もが感じたことのある経験をもとにファンタジー技術を描いている点がよかった。

##デザインフィクション演習