2018年12月18日 03時26分

テクノロジーを見つめなおす

さくら

星新一 「ボッコちゃん」

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 SF小説の書評課題が発表された時、「まずいな」と思った。なぜなら私は、本を読むことに対して苦手意識を持っているだけでなく、SF作品とは全くもって親しくなかったからだ。少し焦りを感じながら「SF小説 初心者 短編 おすすめ」の4つのワードで検索をかけ、目に留まった作家が星新一だった。サイト内でおすすめされた本と作家の中で、唯一知っていた名前がそれだったのだ。そこで、検索ワードに「星新一 (スペース)」と入力してみると、「ショートショート」「青空文庫」に続き表示されたワードが「ボッコちゃん」であった。

 『ボッコちゃん』は、星新一の50編の作品を集めたショートショート集のメインタイトルであると同時に、その中に含まれる作品のタイトルの一つである。今回私が書評を書きたいのは、その『ボッコちゃん』ではなく『冬の蝶』という作品だ。このお話は遠い、もしかすると近い未来の日常を描いている。テクノロジーが高度に発達したこの世界では、掃除やお化粧、タバコの火をつけることでさえも、まるで空気のように機械が行ってくれる。なんて快適で夢のような世界だろう。召使いがいなくとも行き届いた生活を手に入れた人々は、まさに王様のようなゆとりを持ち満ち足りた人生を送るのかと思いきや……。突然電気が止まったことをきっかけに全11ページの物語は一気に逆転していく。

 この物語の素晴らしい点は、テクノロジーで溢れかえった世界を描いているのにも関わらず、メカメカしさを感じさせない点である。むしろ、非常に穏やかで美的な印象を受けるのだ。おそらくタイトルをはじめ、文章のいたるところに美しい自然を想起させるような言葉がチョイスされているからであろう。このように美しい表現で世界が描かれることにより、その世界が望ましいユートピアであるかのように語りかけられる。しかし、本当にそこはユートピアなのだろうか。最後まで読んだあと、もう一度最初から読み直すと、穏やかな美しさを放っていた言葉たちが急に熱を失い始める。それらが美しいことに代わりはないが、氷の女王のような冷ややかさを帯びた言葉を前に冷静にならずにはいられない。さらに、主人公が飼う猿の「モン」とその他との対比が、テクノロジーに呑まれた我々の生活を一層批判してくる。「猿でもできる」と人を揶揄する言葉があるが、人間には一体何ができるのだろうか。

 2018年現在の私たちの生活は、この物語の世界に比べるとまだまだ発展途上と言える。それでも十分テクノロジーに依存していると、「雪の音」を聞いたことがない読者は痛感させられるだろう。テクノロジーを飼いならした人間の未来、いや、テクノロジーに飼いならされた人間の未来が、季節を外れの蝶とともに描かれる、冷たく美しい一作。

#デザインフィクション演習