2019年11月12日 12時04分

未来と人間らしさ

saori fujita

綾崎 隼 「未来線上のアリア」

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 二〇一〇年、第一六回電撃小説大賞を受賞し、綺麗でミステリー要素を孕んだ作品で有名な綾崎隼の小説の一つが、「未来線上のアリア」である。内容としては、未来の地球にて惑星移住計画を遂行するにあたり未知の惑星へ調査団が向かうのだが、その途中で起こる事件と人間関係の交錯を宇宙船に詰め込んだ恋愛ミステリーとなっている。SF小説のジャンルではあるが、この物語に近い将来が訪れるかもしれないという可能性を残す役割を果たしているのがこの小説のみそであり、キーワードはタイトルにもあるように「未来」についての小説であるという点だ。「未来」とは誰も予測することのできない完璧な確実性を孕むことのない言葉であり、裏を返せば人に自由を与える言葉である。この小説はSFの世界観に浸りつつどこかでこれは他人事ではないという気持ちを起こすため、その二重星が面白さの厚みを増幅させる。

 恋愛ミステリーと謳うように恋愛模様も未来を考えた主人公の重い愛が物語を展開し、そこに生と死が関わることでさらに愛が浮き彫りになるような構成である。読者が考えられないような狂愛にも近しいものから、その大きすぎる愛によって気づかれぬことのない裏で展開されている密かな愛まで形は様々である。「愛」がなければこのような物語は生まれないと言えるが、その「愛」に執着するところが人間らしさを巧みに表しており、今の時代では想像できないような非日常的な環境の物語であるとはいえどこか共感できるような役割を果たしている。SF小説の非日常性を含みながらもそれに突き放されるのみではなく、その非日常性が登場人物の人間らしさを引き立たせているのである。

 振り切るほどの偏愛は、誰しも持ちうる可能性を秘めたものである。死という人間において一番わかりやすい人の失い方大きなテーマとして表では捉えられており、主人公はそれに囚われ理性を失うまでになっている。しかし主人公以外に目を配ると、その裏には変えることのできない相手の気持ちを失うこと副題として掲げられていると読み解ける。未来の地球で発展した医療的な先端技術を学んでおり、人間のことを科学的に細かく知っている頭の良いはずの主人公も、自分の過去を元に構築されてしまった偏愛を自分自身でコントロールできていない点が、文明的な発展に左右されることのない人間らしさだ。