2019年11月12日 02時57分

宇宙とロボ

安食 星那

眉村 卓 「日本SF傑作選3 眉村卓 下級アイデアマン/還らざる空」

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 「日本SF傑作選3」に収録されている、「下級アイデアマン」という短編作品を取り上げていく。「下級アイデアマン」はSF文学の巨匠である眉村卓が昭和三十五年に『第1回SFコンテスト』に応募するために書いたデビュー作である。

 この作品は宇宙とロボットを扱ったSF作品であるが、私はこの作品を読み終わった後モヤついた気持ちに陥った。SFというフィクションの話だが妙に現実味を帯びて居るようなないような、なんとも言えない感情が私の中にある。

 この話は底辺アイデアマンである主人公が水星に設立された基地に派遣されるところから始まり、冒頭からアイデアマンという職業について語られる。しかしここで語られるのは滅入るような現実味を帯びたアイデアマンの厳しさと、主人公の置かれた限界な状況の説明である。水星では昼地帯と夜地帯で各分野の博士が専用のロボットを使って研究をしており、ロボットの説明が長々とされる。宇宙におけるロボットのあり方や耐熱の技術について語られるが、ここでも主人公のアイデアマンとしての思考や上司からの説教の描写が入り、読み手を空想の世界から現実世界へ呼び戻す。宇宙という我々が直接関与することのない世界と我々の日常にあり得る現実を絡めることで、この研究は本当になされていてもおかしくないという感覚に陥る。

 ここまでは展開があまりなく、主人公の現状や宇宙技術の説明が続くパートになって居る。しかし次の展開で物語の動きが大きく変わってくる。昼地帯のロボットが暴走を始めるのだ、ここで面白いのがロボットの暴走を描いたSFだがシンギュラリティとは別の次元の話になって居るところだ。ロボットの暴走を知った主人公と研究所の博士は、二人で原因の調査に出かける。普通なら怒ってはならない事故だが、主人公のアイデアマンという設定がここで生き始める。主人公は突然の事件に対し、前半とは比べ物にならないほどに生き生きし始める。読み手は前半で主人公の置かれて居る状況を理解して居ることにより、後半の主人公の働きに期待を抱き始める。主人公によりロボット暴走化の原因は地球大生命体の存在であることが証明される。地球外生命体はロボットのプログラムの隙をついて人間を敵だと認識させていたのだ。人間は物事が理解の範疇を超えると恐怖を感じるが。地球外生物の侵略も例外では何だろう。この物語の不思議な点は、この後の戦いから主人公を話して進めることである。主人公の忠告を無視した上司は、主人公を地球に戻し宇宙人とアンドロイドで戦う。人間側が負けたことをテレビで見た主人公が、休めないという現実の闇とロボットを照らし合わせるというダークな終わり方をする。全体を通して暗い作品だが、プログラムの隙をつくという発想は怖いものを感じる。