2019年11月11日 15時15分

監視社会とは

山本 恵

伊坂幸太郎 「ゴールデンスランバー」

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伊坂幸太郎著の『ゴールデンスランバー』は、ミステリー作品とされているが、物語の設定上の監視社会の構造は、SF要素を含んだディストピア小説であると感じた。

ある日、主人公・青柳雅春の住む仙台市で首相凱旋パレードが行われたが、ドローンによる爆破で首相が暗殺される。その直後から身に覚えのない首相暗殺の濡れ衣を着せられた青柳は、逃亡する。やがて、警察やマスコミを支配する何らかの大きな勢力が、情報を操作し青柳を犯人に仕立て上げようとしている事が判明する、というのが大まかなあらすじだ。

この物語では、街中の至る所にカメラが張り巡らされている時代を描いている。政府は監視社会にする事についてまっとうな理由をつけ、人々は自分たちが監視される事に疑問を覚えず、安心な世の中だと喜んでいる。しかし実際は、監視社会の構造を作り出す事で個人の情報を把握し、いいように操作しているのだ。主人公である青柳雅春は、監視社会によって搾取された情報をいい風に工作され、犯罪者に仕立て上げられた。

この監視社会の構造、「セキュリティポッド」という架空の監視カメラとして作中ではあらわされているが、現代の私たちも全く同じような仕組みの監視社会に生きている。

例えば、マイナンバーで個人を情報として管理する仕組みが作られ、管理されるのを強制されている事。また、アプリをインストールしたり、会員登録したりする際の同意ボタンもそうだ。読むのに数十分はかかりそうなぐらい小さな字で、色々な制約が一応示されてはいるが、あの場において私たちは、暗黙の了解のように「同意する」を選択する事を強いられている。あの説明書きを誰も全て読んでいないに違いない。私たちは、同調圧力によって、知らない内によくわからない制約に署名をさせられているかもしれないのだ。スマホなどの機器は極度に複雑化、素人の把握しきれない機能をつけ、仕組みの把握は極めて難しい。それでも私達はそれを毎日使い、仕組みのよくわかっていない機器を信用して全ての情報を打ち込んでいる。また、便利だろうと散々言われているキャッシュレス化も監視社会への一端を担っている。何をどこで買ったかを情報として差し出すことは、自分の行動範囲や趣味趣向を全てあけっぴろげに誰かに教えているのと同じであり、生活範囲を第三者に監視されていると言っても過言ではない。

もしこの物語のように、情報化された監視社会で、その情報を悪用しようとたくらむ覇権勢力が現れたならば、私達は青柳雅春のように、社会的に殺される事も容易だろう。

監視社会というのは、安全が保障されるようで、便利な仕組みである。しかし、その実際の仕組みや管理を誰が担っているかという事、情報がどう使われていくのかという事まで、私たちは把握できていない。覇権勢力、そして人々に漠然とした影響力を与えるメディアを、情報と結びつけることの怖さをこの物語から思い知らされる。これから、より完全な監視社会へと世の中は変化していくと予想されるが、その情報の集約をどこが握っているのかという事について、注意しつつ、管理される恐ろしさを理解した上で情報と向き合わなくてはならない。