本作『未来職安』の舞台は、平成よりちょっと先の未来、警備ロボットや自動運転車、配達渡し鳥などといった先進技術に驚きもしなくなった時代だ。
働かなくても「生活基本金」が支給され、労働の必要がなくなったにもかかわらず、未だに需要が存在する職業安定所「職安」に勤める主人公目黒奈津と職安所長の大塚さんの前にやってくる職業を求める妙な「消費者」たちとの掛け合いが物語の大半を占めている。
本作に登場する、仕事を求め職安を訪れる「消費者」たちのバックグラウンドは、同性愛の息子を持つ親であったり、明日までにどうしても「生産者」になりたい彼女持ちの男など様々だ。しかし、彼ら彼女らに共通している要素、ひいては「職安」を訪れる人間が持つ欲求を取り出してみれば、「(働かなくても食っていける世の中なのに)働きたい」という思いただそれだけであろう。
そんな彼ら彼女らに、主人公目黒奈津や「職安」所長の大塚さんは、「防犯カメラにわざと映りデータを残させない仕事」であったり、「海外の日本料理店の店頭にただ立ち高級感を出す仕事」であったり、どれも現代の私達からすれば、ともすれば馬鹿馬鹿しいと思ってしまうような仕事ばかりを斡旋する。だが求職者たちはその職に就くことを選び、契約を結び職安から旅立っていくのだ。
AIの進歩、技術革新などにより、「今後10~20年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化される(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/40925より)」といった進言も見られる現在を生きる私達にとって、「将来的に無くならない仕事を選び、就職する・起業する」といったミッションの重要度は高い。だが、本作を読了した後、私が抱いた感覚は、「そうした仕事が無くなった世界には、また「10年後に無くなる仕事」が生まれてくるのではないか?」というものであった。
先述の「防犯カメラにわざと映りデータを残させない仕事(個人情報の管理が厳格化されたため、例えば輸送業者が運ぶコンテナをカメラが捉えその物品や流通経路を解析しようと試みても、その映像に人間が映り込んでいた場合は個人情報保護の観点から解析対象外となる)」にしても、「映像に映り込んだ人間のシルエットを感知し、映像上においては透過させる」ような技術が登場すれば、即刻「消える仕事」と化すだろう。ただ、そうなった場合、今度は「監視カメラの映像にネコを映り込ませ解析を妨害する仕事」であったり、「非透過素材を使った服を着ながら監視カメラ前を横切る仕事」など、さらに馬鹿馬鹿しい仕事が登場する可能性は高いように思う。
つまり結局のところ、世の中の人々が「仕事」を求める限り、「消える仕事」は無くならないのではないか。そしてそのことが指し示す未来像は、際限ない欲望が招く、現代から見るとある種「笑える」ディストピアなのかもしれない。以上が読了後の感想だ。