この本はSF小説ではあるが、多くの人が想像するものとは異なるだろう。現に、本書の開設で古川日出夫氏(小説家・1966年生まれ)もこの作品はSFなどのジャンルの限定性のようなものから、完全に解き放たれている、と述べている。この作品の作者は星新一であり、1968年に『妄想銀行』および過去の業績に対して第21回日本推理作家協会賞、1998年には日本SF大賞特別賞が贈られる。星新一は性的描写などの過激な描写が一切なく、幅広い世代で多くの人に愛されたSF作家である。簡単な文体で書かれており、子どもでも楽しめる内容になっている。しかし大人が読むと、ユーモアのある物語の中にあるメッセージに気付くことができる。この『きまぐれロボット』という作品は、1972年に初版発行されているが、今2019年を生きている私たちが読んでも違和感なく楽しめるものになっている。多くのSF作品は五十年もたてば現実になっているものがあったりし、楽しめなくなってしまうものであるが、この作品は違うのである。この作品はショートショートといって短編がたくさん入っている。その中でもやはり題名ということもあり、『きまぐれロボット』という作品がSFの本質、もっと言ってしまえばロボットやAI、デジタル社会の本質をついている。わずか見開き二ページほどの短い物語ではあるが、作者が一番伝えたかった事なのではないだろうか。それ以外の作品も五十年前に書かれたと思えないほど、今の時代だからこそ読むべき作品ばかりである。ロボットやAI技術などが急速に発展してきている今、私たちはどうやって付き合っていき、どうすべきなのかということを考えさせられる作品である。しかし、作者は生活が便利で効率的になる技術を肯定も否定もしていないこともこの作品の特徴である。こうしなくてはならない、というような筆者の主張はどの作品にもなく、あくまで物語としてユーモラスに描いているだけなのである。そこからなあにを感じとるかは、私たち読者一人ひとりにゆだねられているのである。この作品は今の時代の私たちが最も必要としている作品である気がしてならない。多くの人がこの作品を読み、今の世界についてひとりひとりが考えれば、よりよい世界になるに違いない。