この小説を読もうと思ったきっかけは、図書館で自分が通う早稲田という言葉が目に入ったことである。この話の主人公は早稲女らしい早稲女、つまり自分の容姿に無頓着で、がむしゃらに目標をかなえようとする人物として描かれているが、私は自身も含めて今まで大学に通っていてそのような人物と出会ったことがない。もちろん私自身の交友関係がそこまで広くないだけであって、中にはそういう人もいるのかもしれないが。そんな自分とは全くタイプの違う早稲女の主人公がどのような物語を紡ぐのか気になり、引き込まれてしまった。
本書ではリアルな恋愛を通して主人公を中心とした人々が時に自分の理想を求め、時に勝ち負けにこだわり、時に違う人間になろうとし、時に友人に嫉妬して、時にコンプレックスを抱えているといった様子が描かれている。フィクション小説や少女漫画のように特別な人が活躍するわけではなく、キラキラした大学生活や、かっこいい社会人がいるわけではない。しかし、登場人物達が抱えているそうした感情はとても身近なもので思わず感情移入してしまう。高校生から大学生へ、大学生から社会人になるというように新しい環境に身を置かねばならない時期というのは非常に不安定だ。今までとは全く違う環境において自分がどのように振る舞うかによって全てが決定してしまう、そんな考えにとらわれてしまう。他の人の目が気になり、自分のアイデンティティを確立しようとして今までの自分と違う人間になろうとしたり、自分の道を貫いて結果を出している友人を見て羨ましいと思ってしまったりすることがある。同じようにそうした感情を抱いている登場人物達が互いに影響を与えあい、各々の答えを見つけていくこの物語では、自分と向き合うということがテーマの一つとなっている。それらを見て自分と向き合うとはどういうことだろうと考えさせられた。また、ある登場人物が言う「手に入らないものに向かってがむしゃらに突き進むのって一見努力家に見えるけど、私はもったいないなって思う。それより今自分の中にある良いところをゆっくりゆっくり育てるのが好き。」というセリフに、勝ち負け以外の考え方を改めて教えられる。
ネタバレになってしまうので詳細は記述しないが、読んでいて生きていくとはこういうことなのかもしれない思わされた。この本に描かれているのは主人公の人生のほんの一部分だ。しかし、実際の人生においても理想の自分になれず、自分の弱さに向き合わなければならないときはきっと来る。選択を後悔することだって多くあるだろう。そんな自分と向き合うための手がかりがここにはちりばめられているように感じる。登場人物達の選択や考え方がすべて正しいと思うわけではないが、大学生から社会人へとなっていく人々に向けて大切なメッセージが込められている一冊であると感じた。