私たちは知らないうちに、誰かが、あるいは社会が作り出した情報システムの中に組み込まれている。
私たちが何気なく使っているiTunesもその一つだ。iTunesでは音楽をアーティスト名の順番に並び替えることも、アルバム名の順番に並び替えることも容易い。物理的にCDアルバムを管理しようとするとどちらかの並び替え方に統一しなければならないし、音楽をデジタル化したiTunesは「情報:それを含む入れ物=1:1」という関係を崩壊させた。
一方で、iTunesの機能は音楽だけではなく映像もPodcastも…というようにどんどん多様化している。さらには使用するデバイスもパソコン、iPhone、タブレット…と増え、しかもそれぞれのデバイスによってできることとできないことが決まっている。私たちは「どのデバイスで何のデータをどう管理しているのか」を把握する必要が出てきた。
ここでは2点の課題が提起されている。
* 音楽のシンプルなライブラリを管理するために使っていたツールが様々なタイプの異なるデータを扱うツールに変貌してしまい、それぞれのデータオブジェクトごとに異なる組織構造スキームやビジネスルール、やり取りの方法が存在する。
* 提供される機能がコンピュータに制約されず、複数のデバイスで利用できる。各デバイスは、それぞれの情報構造でできることとできないこと定義されており、それによる制約と可能性がある。
しかし私たちはこの状況に気がついていない。言われてみれば確かに、昔と今では音楽の管理の仕方が変わったこと、メディア管理が煩雑化していることを自覚できるのだが、普段は何の違和感も感じることなくiTunesを利用する。UIに多少の不便は感じても、データの管理の仕方そのものには疑問を抱かない。それだけ当たり前にAppleの定義した情報システムに組み込まれているのだ。
これら情報システムを作る上で、一番基盤となるのが本書で扱われている「情報アーキテクチャ」という概念である。
この本の第4章ではWebサイトと建築の関連性(近似性)が書かれているが、中でも面白いと感じたのがスチュワート・ブランドの「時間変化による層」だ。建築にはSite(土地)、Structure(構造) 、Skin(外装) 、Services(サービス) 、Space Plan(空間計画) 、Stuff(モノ) の6つの層があり、Site(土地)は時間による変化の速度が遅く、Stuff(モノ)に向かうにつれて変化の速度が速くなるというものだ。Webサイトも同じことが言えて、UIやインタラクションシステムは流行によって移り変わるが、基本的な情報の意味構造については比較的安定している。建物の設計と同じく、情報アーキテクチャをはじめに正しく設計していくことが大切なのだ。
また、建築とWebサイトの比較は現実の場所とインターネット上の場所の比較でもあり、私の以前書いた「webという空間」の書評にも繋がるものがある。情報システムというものは目に見えず概念的なものであるが、こうして現実にある構造に置き換えて考えることでより理解しやすくなるのではないだろうか。こうした知見も生かし、まずは普段当たり前に利用しているサイトやアプリケーションなども、ただ与えられるがままに享受するのではなく背後にある情報システムを意識して見ることができるようになりたいと思う。