お葬式は誰のために行われるのか、という疑問に答えを出すことはナンセンスに感じるが、のこされた人々が悲しみから立ち直り、前を向くきっかけとなる場であることは確かだと私は考えている。「結局はね、生きている人の心の中の問題なのですよ。どう死を認めるか。どう諦めるか。」という本書でのセリフは、お葬式や死そのものに関する筆者の考えを表しているようで印象に残った。
本書『ほどなく、お別れです』は東京の葬儀場でアルバイトをする女子大生が主人公の物語であり、人の「気」に敏感で、亡くなった人の気配をも感じ取ることができるという主人公の能力が要となって話が進む。葬儀場を舞台にした本作は、現代の東京で行われる葬儀の様子を知ることができるという点で多くの人にとって新鮮に感じられるのではないだろうか。実際に葬儀場でアルバイトをしていたという筆者の経験により、お通夜や告別式といった多くの人にとっては非日常である儀式が冷静な視点で描かれている。一方で、主人公らが遺族や故人に感情移入をする場面には、遺族の動揺や悲しみを他人事と割り切らず、式が彼らにとって新たなスタートとなることの重要性が表現されていた。
本書に関するインタビューで筆者は「生死の境界を越えた人の繋がり」を書きたいと話していた。「ただ、そうしたいという強い思いがあったということだ。」という言葉が作中にある。亡くなったはずの妻が主人公を介して夫に届け物をする場面で、不思議な体験をした主人公が自分なりにその現象を理由づけたセリフである。このように、生死の境界なく人の思いが行き来する様子や、一方的に故人がのこされた家族を見守る様子が描かれた場面がいくつもあり、亡くなった後も人の思いは生き続ける、という願いのようでもある筆者の考えが汲み取れる。
生きた人間同士の繋がりはもちろん、故人に思いを馳せることで自身も変化していく人々の物語を通して、死を受け入れる場としてのお葬式が、悲しみや動揺だけでない様々な感情が詰まったものであることを再度感じさせられる。新しい形のものや簡略化されたものなど、故人の送り方が多様化しつつある中で、葬儀の役割や死の捉え方について考えるきっかけとなる作品である。