2019年01月17日 14時29分

つながりこそが、ボクらの武器

sawa

岩井 恭平 「サマーウォーズ(スニーカー文庫)」

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映画が公開されたのは2009年、私が小学校6年生の時だ。当時はチャットやプログに、ネット上で出会って現実でも出会う「出会い系」が増えてきた時代だ。匿名で利用できる為、詐欺に多用されたり、悪用される事件も多発した。その言わば、他人行儀なコミュニケーションステージが、「インターネットはダメだ!」と頭ごなしに否定される原因にもなった。本作は、そんな時期に文字と映像の両方で、来るべき時代への憧憬と、その時代が持つ危うさを大衆にわかりやすく示してくれた作品といえる。ネット黎明期の、人々のネットへの思いを映した作品として、記念碑的な作品だと思う。
 この物語は映画の方が先に公開され、小説よりも有名である。私も映画を見た後に、小説を読んだ。原作本から映画が生まれることが多いが、この作品はむしろ逆になったことで、読者はよりスムーズに多元的なネット社会を舞台とした物語の展開を理解できたような気がする。

本作は、自身のアバターを操ってゲームやショッピングから納税や行政手続きまでもできる、世界一安全と言われるセキュリティを持つインターネット上に存在するOZという仮想世界で暴れるAIに、家族が力を合わせて立ち向かう物語である。映画では、世界観のビジュアルがとてもわかりやすく描かれており、小説は主に主人公の高校二年生・小磯健二と、ヒロインである篠原夏希の心情が細かく描かれている。どちらも楽しめるように巧妙に作られたノベライズ版である。先に記した時代背景の中で、インターネットでつくるコミュニケーションの強さと、冷たいと思われがちだが、使い方次第では現実以上に結束することができる媒体を紹介しつつ、こうした技術革新が世界を巻き込む可能性があると継承を鳴らしているのだ。
 私は、小学生の頃はチャット、中学の頃にはブログやアメーバピグ、Facebookにいわばハマっていた。Facebookのように会社や行政と気軽にメッセージをやり取りすることが出来るのにも関わらずゲームもでき、更にアメーバピグのようにアバターを自分が乗り移らせるように動かすことができる、という多様な世界を内蔵しているネット世界は私にとって理想的に思えた。そんな「こんな仮想世界があったらいいな」と、私を含め夢見る青少年に、一方で、実現したとき忘れてはいけないものを合わせて教えてくれたという意味で、インターネットが一般に普及し始めた頃に思春期を迎えた私たちの年代においてはバイブル的なストーリーなのである。
 世界を揺るがす大事件でありながら、家族の中で解決できる身近さ。共感しやすい主人公という典型的なライトノベルのような展開。その瞬間に存在する技術で実現可能な世界観を舞台にしているイメージしやすさ。そして誰もがそうありたいと願う、あたたかい家族のつながりをも堪能させてくれる作品だ。だからこそ、2000年代後半を視野にいれた、インターネットと既存の世界を繋げる物語として、大きな影響を残したのではないかと思う。  

今後、技術はさらに進化するだろう。AIに人間が逆らうことなどできはしないと既に私たちは思い始めている。だが、人間が作り上げたものは、人間が力を合わせれば望む方向に進ませることができる。そうした希望を、私たちに与えてくれるという意味でも、今後も読み続けられる作品になると思う。

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