2019年01月17日 12時12分

ものづくりに関わる全ての人へ

みやざき はるか

藤原麻里菜 「無駄なことを続けるために」

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 1億総クリエイター時代。

 ブログやTwitter等のSNSの発展により誰もが自分の言葉や写真・動画を発信できるようになった。そして誰もがそれらにコメントでき、本人の耳に届きやすい時代になった。その反面、気軽に発信できるということは気軽にクオリティの高いものに触れられる。他人のレベルの高さと自分のそれとを比べて、落ち込んだりうらやましがったりする気持ちになる経験をした人は多いのではないだろうか。

 アウトプットに自信がない。そんな人にオススメの一冊である。

 著者は発明家・文筆家・映像作家である藤原麻里菜氏。彼女は「無駄づくり」というコンテンツをYouTubeやTwitter等のSNSを通じて発表し続けているクリエイターだ。「無駄づくり」とは文字どおり無駄な装置で、「Twitterでバーベキューと呟かれると藁人形に五寸釘が打ち付けられる」マシーンや、「札束で頬を撫でられるマシーン」「会社を休む理由を生成するマシーン」等タイトルを聞いただけでニヤっとしてしまう作品たちばかり。本書では彼女が無駄づくり制作を始めるきっかけや制作過程、思考から稼ぎ方まで赤裸々に述べられている。

 「無駄なことを続けるために」というタイトル、「無駄づくり」という活動に興味を持って彼女の面白さ目当てに手を取る人が多いだろう。もちろんその目的の人たちも満足できる本著(制作過程はかなりユーモア)だが、この本はものづくりに関わる人全ての応援メッセージである。専門知識もスキルもなかった彼女が、アイデアと勢い(と締め切りへの切迫感)で200以上の作品を世に出してきた生き様は非常に勇気をもらえる。ものづくりは完璧を目指さなくてもいい、見た人にちょっとでも幸せになってほしいというスタンスを持つのも非常に共感した。

 私は学業と並行しながらデザイナーとカメラマンをやっている。偉大な先駆者たちの作品を見ては自分の未熟さに辟易する毎日であるが、日々、コツコツ世の中に自分の作ったものを発信している。デザインもカメラも大好きなことだから続けられる。続けていくとどんどん自分のスキルも磨かれて、できることがどんどん増えていって、理想のクオリティに一歩ずつ近づける感覚がある。人に見せてあれこれ言われることで、反省点も見えてくるし、自分のやりたいことも整理され、結果活動の幅も広がる。

 誰もが気軽に発信でき、反応がすぐに顕著に帰ってくるこのインターネット時代にも、ものづくりの本質やクリエイターにとって大切な資質は変わらない。ものづくりは結局100本ノックだ。トライアンドエラーを繰り返すべきなのだ。そのために制作以外の活動もして、本業に生かす。そしてまた制作を進める。無駄作りという非合理なことを進める上での合理的な活動方法であり、制作活動のそのものの真髄である。この本は恩着せがましくなく、そんなことを教えてくれる。“生きるため”“続けるため”“稼ぐため”にという地に足ついてる感が、彼女の発想の突拍子もなさとのギャップを生み出していてこの本の味わいがさらに深まっている。

 本書の帯には、ばかばかしくて最高な大人になる方法、と書いてある。本作をめちゃくちゃ真面目に褒めてきたが、やっぱり「歩くたびにおっぱいが大きくなるマシーン」や「ヒモ貯金箱」等改めて見てみると本当にぶっ飛んでいる。ばかばかしいなんてこれ以上の褒め言葉あるだろうか。これほどのユーモアの生み出せるクリエイターに私もなりたい。