2018年12月21日 03時56分

露呈するヒトの弱さ

境田梨甫

久永実木彦、高山羽根子、宮内悠介、加藤直之、秋永真琴、松崎有理、吉田隆一、倉田タカシ、宮澤伊織、堀晃 「Genesis 一万年の午後」

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今回が人生で2回目ほどのSF小説の読書体験であったほどに、SFというジャンルにさほど興味を持たずに生きてきた。私にとって「SF」というのは、機械的で、怖い、グロい、などのイメージであったため映画にしろ小説にしろ、あまり性に合わないと避けてきたのだ。

チェン先生が紹介した作品が面白そうに感じる効果だろうか。この授業で紹介された『エクス・マキナ』という作品に興味を抱いた。毛嫌いしてきたはずのSFだが、鑑賞している最中のあのドキドキ感、その世界に没入している感覚、がたまらなくクセになってしまった。

少しずつSFに興味を持ち始めたがSF作品に対して無知な私は『エクス・マキナ』に近いイメージであるロボットが出てくる近未来的なSF小説なら『エクス・マキナ』のように楽しめるのではないかと思った。そしてそのテーマで本を探した。

そこで出会ったのが、『一万年の午後』というSF短編集である。その中のタイトルにもなっている『一万年の午後』がまさに、ロボット人間の話であった。

舞台は、人類がとうに滅亡した宇宙である。人間が作った「マ・フ」というロボットは、ヒトが自分たちを作ったという事実は、「聖典」によって知るのだが、ヒトを見たことはない。もうこの時点で、人類がいない未来、という現実離れした世界の設定にぞくっとした。「マ・フ」は一万年もの間、世代交代もせずに生き続けることができるものである。「聖典」にて、生態系を持つ惑星があれば担当のマ・フを現地に置いて環境の変化を観察してマップを作り上げていくということについても定められており、主人公のナサニエルは、ニコラス、フィリップ、エドワードなどと共に担当監察員を務めていた。

ナサニエルには、機能として問題はないし誰にも迷惑をかけない為告白する必要もないと感じていたロボットの不具合があるという秘密を持っていた。ある日、フィリップに聖典によりタブーとされているのに生態系を犯してしまったことを、なぜか自分にだけ打ち明けられる。ナサニエルは、自分の秘密を知られているのでは?と冷静になれず必死になってフィリップを攻撃し自分を防御していた。それは秘密ではないのに、でもどこかで誰にも知られたくない秘密であって、心の穴であったのだ。フィリップが生態系を犯したことは完全な悪ではなかった。それをナサニエルも理解していた。しかし、自分の秘密が知られていることの怖さからフィリップの行いが許せなかった。言い合いの中フィリップはその場で器具がバラバラになり、ロボットの機能が停止=死を迎えてしまったのだ。仲間と直そうとしても治らなかった。最後に、ナサニエルはフィリップが変えた生態系、救った命を、踏みつけて絶滅させた。フィリップが変えた生態系をなかったことに。それで自分を守った。

この話に人間は出てこずロボットの世界だが非常に人間的で、人類滅亡後の機械であっても人間味に溢れまくり、ヒトの弱さが露呈しまくっていた。それが機械であるから余計に際立っている。ヒトのままの弱さが強く機械を破壊させ、機械だからこそ脆くあっけなく壊れてしまう。ヒトの感情は厄介だ。機械はそれがないから良いのに。感情をロボットが持ち、感情を引き金に争ってしまえば破壊力は恐ろしい。なんだかやっぱりディストピィアだなと思ってしまった。

##デザインフィクション演習