2018年12月21日 02時31分

固定観念に疑問を抱かせる本

武士奈央

フィリップ・K・ディック 「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」

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『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読んで_DFW課題

1T170544-6 武士奈央

(1) どのようにしてその本を見つけたか

SF小説と言われて最初に思いついたものが星新一だった。星新一のショートショートは小学生の頃に読んだことがあり、どうせなら読んだことのない作品についての書評を書きたいと思い調べたところ、一番興味を引くタイトルの小説が今作品であった。また、今作品は映画「ブレードランナー」の原作である。「ブレードランナ−2049」という「ブレードランナー」の続編の映画を見たことがあったので、原作にあたる今作品を読んでみたいと思ったため。

(2) 概要

物語の舞台は、第三次世界大戦後に「死の灰」と呼ばれた放射能灰に汚染されて荒廃した地球。この時代では、生きている動物を所有することが地位の象徴となっていた。主人公のリック・デッカードは、サンフランシスコ警察に所属し、異常をきたして人間に擬態するアンドロイドを見極めて処分する仕事をしていた。人工の電気羊しか持っていなかったデッカードは、莫大な賞金を手に入れて生きた動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた8体のアンドロイドの狩りを始める。デッカードは、感情移入検査法でアンドロイドを見抜いていく。アンドロイドを見抜いているうちに機会に対する考え方が変わっていき、体制側から物語を進めていく役割を担っている。一方、地球の環境汚染が原因で生殖権を剥奪された特殊者のイジドアという男は、3人の逃亡したアンドロイドをそうと知りつつ自分のアパートに受け入れる。イジドアはアンドロイド側からの視点で物語を掘り下げていく。デッカードとイジドアの二つの視点から語られる物語はやがて一つになる。また今作品においてレイチェル・ローゼンという謎の女性がキーとなっている。

(3) 評価した点

主人公のデッカードは、アンドロイドを見分ける方法として感情移入度検査法を用いる。刺激的な質問に対する表情の変化、顔色の変動を検査キットにかけて判定するものだ。この設定は、人間だけが感情を持ち得ていて、たとえ人間そっくりに作られていてもアンドロイドには感情、心がないという前提のもと書かれている。しかし、この物語を読んでいると、本当にアンドロイドには感情が宿らないのか、後天的に感情を獲得できるものなのではないか、そしたら人間とアンドロイドとの違いはなんだ、と読者にどんどん疑問を投げかけてくる。また、デッカードを含めた一般人は、作中においてペンフィールド情調オルガンという感情制御装置を使用して生活している。気分を時間帯ごとにスイッチで切り替えているため、本当の感情ではない。マーサー教の教祖マーサーと共感ボックスという装置を介して一体化して、マーサーの苦しい修行から生きている実感を得ることも描かれている。人間は感情の生き物であるという前提がありながら、装置やVRを通してしか感じることができないことの不自然さ、これは本当に“人間的”なのかと考えさせられる。このように現在の固定観念に対して疑問を抱かせてくれるという点で今作品は評価できるのではないか。

##デザインフィクション演習